ブルーカーボン

  

まず、最新の温暖化情報を軽く紹介します。

2021年8月7日に気候変動政府間パネル (IPCC) が第1作業部会の自然科学的根拠について 評価報告書を発表しました。 報告書の内容はまだ議論中ですが、最終版の報告書は2021年末に公開されとおもいます。

現段階 (2021-08-16) の主な内容は

  1. 温暖化は人間活動によって起きている
  2. 空、海、陸環境および生態系に急速な変化が起きている
  3. 産業革命前からの温室効果ガス濃度は確実に増えている
  4. 地球上の平均気温は1990年から2019年の間, 約1°C上がった。
  5. 1750年と比べると大気中の二酸化炭素濃度は 47% 上がった(410 ppm)

1850 – 1900 年代を水準にしたときの地球上気温の変化。 a) 10年間ごと平均気温の変化の図です。グレー色の線は古気候モデリングから見積もった 温度変化ですが、黒色の線は実際に観測した温度変化です。ちなみに、1300年から1800年の間は 少氷期 (little ice age) と呼ばれています。 b) 1850年から2020年の間の温度変化を拡大した図です。茶色の線は 第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)のモデルから求めた人間と自然活動における温度変化の値です。 緑色は太陽エネルギーと火山活動(自然活動)のみの影響を示しています。 つまり、2つの線の違いは人間活動の影響によります。 (参考資料:IPCCAR6 Figure SPM.1)

カーボン レインボー (Carbon Rainbow)

オーストラリア国立大学の研究グループは地球上の炭素循環に対して、炭素のソース (source) とシンク (sink) を グレーカーボン (grey carbon)、グリーンカーボン (green carbon)、 ブラウンカーボン (brown carbon)、ブルーカーボン (blue carbon) と名付けた(Mackey et al. 2008)。 当初定義されていたグレーカーボンは、地中にのこる化石燃料のことでした。 グリーンカーボンは陸上における植物が光合成によって吸収した二酸化炭素のこでした。 さらに、林業目的の森林はグリーンカーボンよりも、ブラウンカーボンとして区別した。 ブルーカーボンは海に貯蔵された二酸化炭素と炭酸イオンのことでした。

現在、カーボンは6色に分けられています。 温暖化を進ませるカーボンはブラック、ブラウン、レッドです。 温暖化を制御するのはグリーン、ブルー、ティールです。 ブラックとブラウンカーボンを合わせて、 1年間に約 7200 〜 10000 Tg の炭素が大気に排出されています (1 Tg = 1兆 グラム)。 その大部分はグリーンカーボンとブルーカーボン生態系が 吸収してくれますが、それでも大気中の炭素量は 2000 Tg / year 増えています。 吸収された炭素の45%はグリーンカーボン生態系に取り込まれのこり の55%はブルーカーボン生態系に取り込まれます。

ブルーカーボン: 海洋生態系や沿岸生態系、 (海草藻場、海藻藻場、マングローブ林、塩性湿地帯など)、 において固定された炭素がブルーカーボンと呼ばれています。 ところが、ブルーカーボンはグリーンカーボンほど具体的に定義されていません。 とくに海藻の役割については研究者の中で議論されています。 それにしても、一年間あたりの炭素固定量は、 海草藻場では 62 〜 71 g C / m2、 海藻藻場では 0.4 〜 2.1 g C / m2、 塩性湿地帯では 66 〜 167 g C / m2、 マングローブ林では 41 〜 104 g C / m2です (Duarte 2017)。 また、藻場、湿地帯、マングローブ林で固定された炭素は周囲の生態系に輸出されます。 たとえば、海藻や海草は近くの沿岸に打ち上がったり、深海へ流されたりします。 つまり、Duarte (2017) が推定した炭素固定量は過小評価です。

海藻養殖もブルーカーボンだと考えている研究者もいます。 天然の海藻藻場は 173 Tg C / year に対して、海藻養殖は最大 0.68 Tg / yearと推測しています (Duarte et al. 2017)。 よって海藻養殖は温暖化対策へ有効に見えません。 それにしても、1500 ton CO2 / km2 / year ほどの二酸化炭素を吸収し、 生産した海藻は食べ物にもなるので温暖化と食料不足の対策になると評価されています。

ブラックカーボン: ブラックカーボンは二酸化炭素の次に地球温暖化の促進に影響していると考えられています (Ramanathan and Carmichael 2008)。 ブラックカーボンは主に化石燃料やバイフューエル、バイオマスの不完全燃焼から発生するススです。 このように大気中に散らばるブラックカーボンは炭素性エアロゾル (carbonaceous aerosol) と呼ばれていて、煙やスモッグ (smog) は代表的な例です。 では、温度変化との関係は何でしょうか?

ブラックカーボンは2つの過程によって温暖化を促進しています。 1つ目は、大気中に浮遊しているブラックカーボンは太陽光を吸収し、熱として環境に放射します。 このように熱を放射することで、雲や雨などの発生に影響し、局地的に気象へ影響します。 では、2つ目ブラックカーボンが氷河に沈殿したときの影響です。 浮遊しているブラックカーボンと同じように太陽光を吸収し、熱として放射します。 放射せれた熱によって氷河が融解します。 北極における温暖化の3割程度がブラックカーボンの影響だと考えられています (Shindell and Faluvegi 2009)。

グリーンカーボン: 陸地における光合成生物が隔離した炭素のことです。 熱帯雨林、北方林、温帯雨林、草原、砂漠などが代表的なグリーンカーボンの生態系です。 具体的な一年間あたりの炭素固定量は、 北方林では 0.8〜11.7 g C / m2、 温帯雨林では 0.7〜13.1 g C / m2、 熱帯雨林では 1.4〜7.6 g C / m2 です (Mcleod et al. 2011)。

ブラウンカーボン: ブラウンカーボンは有機炭素性エアロゾル (organic carbonaceous aerosol) です。 つまり、大気中に浮遊している、ブラックカーボン以外のエアロゾルです。 ブラウンカーボンも化石燃料や木材の燃焼によって発生しますが、土壌や植物からでも有機炭素生エアロゾル (大気中フミン様物質, HULIS, humic-like substances) を発生します (Andreae and Gelencser 2006)。 ブラックカーボンと同じように太陽光を吸収しますが、温暖化への影響はブラックカーボンより複雑です。 温室効果ガスもブラウンカーボンとして分類することもあります。 温室効果ガスの中で、特に観測されているのは二酸化炭素 (CO2)、メタン (CH4)、一酸化二窒素 (N2O)です。 2019年の大気中の温室効果ガスの濃度は二酸化炭素 410 ppm、メタン 1866 ppb、一酸化二窒素 332 ppb は代表的な例です。 それぞれ、産業革命前の 47%、156%、23% 高いです。

ティールカーボン: ティールカーボン (teal carbon) は淡水の湿地帯(湖沼や湿原) における炭素隔離のことです (Nahlik and Fennessy 2016)。 淡水生態系は森林生態系と海洋生態系の間に存在すると考えられるから、 ティールカーボンとして呼ばれたのでしょう。 ちなみに、ティールはグリーンとブルーを混ぜたような色ですね。

レッドカーボン: カーボン・レインボーに新しく追加されたレッドカーボン (red carbon) は氷河に生息している氷雪藻の色から呼ばれています (Dial et al. 2018)。 氷雪藻の色素は緑色光や青色光を吸収することで、周りの雪や氷を溶かします。 溶けただした水にはたくさんの栄養塩が含まれているので、氷雪藻が増えます。 氷雪藻が十分増えると、雪や氷のアルベドが下がり、融解が進みます。 こうして氷河の融解が進むことで温暖化の影響も進みます。

年間あたりの炭素隔離速度はグリーンカーボン生態系よりブルーカーボン生態系の方が高い。 縦軸は対数表示です。海藻藻場の情報はほとんどありません。 Mcleod E, Chmura GL, Bouillon S, Salm R, Bjork M, Duarte CM, Lovelock CE, Schlesinger WH, Silliman BR. 2011. A blueprint for blue carbon: toward an improved understanding of the role of vegetated coastal habitats in sequestering CO2. Frontiers in Ecology and the Environment 9: 552–560 (https://doi.org/10.1890/110004)

ブルーカーボンと温暖化に関するリンク集

IPCC AR6 に出てくる確信と可能性の意味を説明します。

確信の表現

  • Very high confidence 確信度が非常に高い
  • High confidence 確信度が高い
  • Medium confidence 確信度が中程度
  • Low confidence 確信度が低い
  • Very low confidence 確信度が非常に低い

可能性の表現

  • Virtually certain ほぼ確実 (> 99%)
  • Extremely likely 可能性が極めて高い (> 95%)
  • Very likely 可能性が非常に高い (> 95%)
  • Likely 可能性が高い (>90%)
  • More likely than not どちらかといえば (> 66%)
  • About as likely as not どちらも同程度 (> 50%)
  • Unlikely 可能性が低い (33% – 66%)
  • Very unlikely 可能性が非常に低い (< 10%)
  • Extremely unlikely 可能性が極めて低い (< 5%)
  • Exceptionally unlikely ほぼありえない (< 1%)

参考資料

  • Andreae MO, Gelencser A. 2006. Black or brown carbon? The nature of light-absorbing carbonaceous aerosols. Atmospheric Chemistry and Physics 6: 3131-3148 (https://doi.org/10.5194/acp-6-3131-2006)
  • Dial RJ, Ganey GQ, McKenzie Skiles S. 2018. What color should glacier algae be? An ecological role for red carbon in the cryosphere. FEMS Microbiology Ecology 94: fiy007 (https://doi.org/10.1093/femsec/fiy007)
  • Duarte CM. 2017. Reviews and syntheses: Hidden forests, the role of vegetated coastal habitats in the ocean carbon budget. Biogeosciences 14: 301-310 (https://doi.org/10.5194/bg-14-301-2017)
  • Nahlik A, Fennessy M. 2016. Carbon storage in US wetlands. Nature Communications 7: 13835 (https://doi.org/10.1038/ncomms13835)
  • Mackey B, Keith H, Berry S, Lindenmayer DB. 2008. Green carbon: the role of natural forests in carbon storage. Part 1. A green carbon account of the eucalypt forests of south east Australia. Australian National University Press, Canberra. https://doi.org/10.22459/GC.08.2008
  • Mastrandrea, M.D., Mach, K.J., Plattner, GK. et al. 2011. The IPCC AR5 guidance note on consistent treatment of uncertainties: a common approach across the working groups. Climatic Change 108: 675 (https://doi.org/10.1007/s10584-011-0178-6)
  • Mcleod E, Chmura GL, Bouillon S, Salm R, Bjork M, Duarte CM, Lovelock CE, Schlesinger WH, Silliman BR. 2011. A blueprint for blue carbon: toward an improved understanding of the role of vegetated coastal habitats in sequestering CO~2~. Frontiers in Ecology and the Environment 9: 552–560 (https://doi.org/10.1890/110004)
  • Ramanathan V, Carmichael G. 2008. Global and regional climate changes due to black carbon. Nature Geoscience 1: 221-227 (https://doi.org/10.1038/ngeo156)
  • Shindell D and Faluvegi G. 2009. Climate response to regional radiative forcing during the twentieth century. Nature Geoscience 2: 294-300 (https://doi.org/10.1038/ngeo473)

    新聞記事に使用した参考文献
  • IPCC. 2021. Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte V, Zhai P, Pirani A, Connors SL, Péan C, Berger S, Caud N, Chen Y, Goldfarb L, Gomis MI, Huang M , Leitzell K, Lonnoy E, Matthews JBR, Maycock TK, Waterfield T, Yelekçi O, Yu R, Zhou B (eds.)]. Cambridge University Press. In Press.
  • Mackey B, Keith H, Berry S, Lindenmayer DB. 2008. Green carbon: the role of natural forests in carbon storage. Part 1. A green carbon account of the eucalypt forests of south east Australia. Australian National University Press, Canberra. (https://doi.org/10.22459/GC.08.2008)
  • Nellemann C, Corcoran E, Duarte CM, Valdés L, De Young C, Fonseca L, Grimsditch G (Eds). 2009. Blue Carbon. A Rapid Response Assessment. United Nations Environment Programme, GRID-Arendal, (www.grida.no)
  • Hinode K, Punchai P, Saitsu M, Nishihara GN, Inoue Y, Terada R. 2020. The phenology of gross ecosystem production in a macroalga and seagrass canopy is driven by seasonal temperature. Phycological Research 68: 261-337 (https://doi.org/10.1111/pre.12433)

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